Book Reviews (マイブック評)

『ジューシー』ってなんですか? 山崎ナオコーラ 集英社文庫 March 20, 2024

この本は、日本からLAに戻ってくる飛行機で読んだ。大好きな山崎ナオコーラさんのご本。青山ブックセンターで購入したものだ。ブック評とは少し話が逸れるが、このブックセンターなかなか良かったです。はい。山崎さんの独特のテンポ感が、とても好きだ。この本も、まさにナオコーラの不思議なテンポと、最高に傑作な登場人物で、いやいやとんでもなく面白い。 新聞のテレビ・ラジオ欄をつくる会社の「夕日テレビ班」での、若手社員6人の人間模様。ぽんぽんとやり合う若者達。とても良いです。地味な仕事の中に、社員達は自分を投影しながら、毎日が過ぎていく。言霊なんて大層なものではないかもしれないけれど、言葉の選択に皆四苦八苦。何気なく見ているテレビ欄に、こういう背景があったんですね。大変面白く読みました!

傑作はまだ 瀬尾まいこ  文春文庫 March 20, 2024

日本への帰国の飛行機で読んだ本。ひきこもり作家の元に、生まれてから一回も会ったことのなかった息子が、突然現れた!貴方ならどうする?誤解、思い込み、様々な葛藤が交錯した結果、息子は母の元で育てられ、作家はひたすら養育費を送り続けた。そして25歳の息子が、突然父である作家の家を訪ね、あれよあれよという間に、一緒の暮らしが始まった。孤独に慣れた作家は、好青年に育った息子に戸惑いながら、段々とその共同生活が快くなっていった。ユーモアあり、暖かな気持ちに溢れ、売れっ子作家の瀬尾さん、素敵な物語を編み出した。

すみれ荘ファミリア 凪良ゆう 講談社タイガ March 9, 2024

凪良ゆう、本当に凄い!古い下宿屋さんの、心温まる友情物語か・・と思いきや、ストーリーの深さ、複雑さが、半端じゃあないです。「愛」が根底にある。人間の課題であり、夢であり、ゴールである、愛。それは、万華鏡の如く、様々に煌めき、消え、見失い、発見していく。登場人物が素晴らしく、我々がそうであるように、彼らも問題だらけでの人生を歩んでいる。問題は解決されない事が多いけれど、それをシェアしていくことで、肩の荷を少しだけ下ろし、前に進んでいく。この作家の他の本を読むことが、今から待ち遠しい。お薦めの一冊です。

月夜の森の梟 小池真理子 朝日文庫 March 9, 2024

朝日新聞上で連載されていた時から、大変な反響を呼んでいたエッセイとの事。こうして、本として発行されて、海外在の私も手に取ることが出来た。美しい文章と深い愛情が、紙面から溢れ出てくる。そして、軽井沢の自然がそれに寄り添い、我々読者に語りかけてくる。プロの作家は、一番近い人の死を文章にし、その過程で悲しみを浄化させるのかもしれない。作家同士のカップル、それは色々あっただろうけれど、こうして死を見送り、寂しさが押し寄せる。読んで本当に良かった本だ。  

流浪の月 凪良ゆう  創元文芸文庫 December 22, 2023

大変失礼ながら、この本を読むまではこの作者の事はほとんど知らなかったんです。正直に申し上げますが、「本屋大賞受賞作」という帯の文句に惹かれて買いました。でも買って良かった。とても心にズシンと来るテーマで、でも文章のキレが良くて、どんどんとページをめくってしまう。そういう、小説です。話の展開、テンポもとても良い! 更紗ちゃんは、幼少期をとても素敵なご両親と、「正直」に生きていた。でもその家庭がその姿を保てなくなり、そこから、新たな更紗の人生が始まる。そして「文」との出会い。最悪の出会い。最高の出会い。運命の出会い。何とでも取れる、その瞬間。人間は誰一人同じではなく、そして地球上にその「個性」が数限りなく存在する。その中で、奇跡的に出会った二人。この二人の出会いをどの様に取るか、それはこちら側の問題でもある。人の幸せって何?素朴な疑問に、少しだけ道筋をくれる小説かもしれない。是非、読んでみて下さい。  

音楽は自由にする Musik macht frei  坂本龍一 Ryuichi Sakamoto 新潮文庫 December 22, 2023

坂本龍一さん追悼 (1952−2023) 坂本龍一が、どうやって世界のRyuichi Sakamoto になって行ったのかを、克明な記録と共に、ご本人が語った自伝。幼少期から芸大に入るまでのところは、私自身も(時期は違えど)日本で同じ様な道を歩んで音大に入ったので、とても興味深かった。私は、高校時代とても不良で(こんな言葉は、もう死語かもしれないけれど)、坂本さんが遊んでいた周辺のことも何となく想像出来て、読んでいてとても楽しかった。私自身ロック喫茶に入り浸り、そこで知り合った仲間達と夜な夜な遊んでいたのだ。それでも、家に帰るとピアノの練習はキチンとしていたし、それをしないと気が済まなかった自分がいた。日本の音大卒業後に馴染みになった飲み屋さんが、千歳烏山にあって、そこには以前坂本さんが出入りしていたと、聞いていた。残念ながら、私は鉢合わせた事はなかったけれど。その意味がこの本を読んで理解!坂本さんのご実家が、その近くだったのだ。 我々の心を虜にしたYMOの数々のヒット曲。そして、映画音楽、コマーシャルソング、俳優やモデルとしての活動など、もうその功績は大きすぎて、短い文章の中で語る事は不可能だ。是非是非この本を読んで下さい。私はこの本を読みながら、しばし「Sakamoto World」に入り込み、素敵な時間を過ごさせてもらったから。心よりご冥福をお祈りします。

小説8050 林真理子 新潮社 December 22, 2023

以前から耳にしていた(海外でも)8050現象について、真っ向勝負した小説。そんなまさか自分の家族に・・世間から隠せるならトコトン隠してしまう・・ひきこもりの我が子を拒絶しながら、それでも愛してしまう父・・ イジメから一つ目の階段を踏み外すことになり、それを修復しなかったばかりに、雪だるま式に引きこもりの世界へ封印されてしまった長男。優秀で将来は医院を継ぐはずだった彼。家族はもうありとあらゆる手段を講じて助けようとするが、どれもダメ。油に水を注ぐばかりの毎日が続く。再生する為に、最初の「階段、踏み外し」まで遡り、それをとことん追求し、そこに家族で向き合う事によって、再生の光が灯った。 緻密な準備段階を経て書かれたであろう、超力編である。ホームレス(アメリカでは Unhoused Peopleという呼称を使っている)問題も原点は同じであろうか。一歩を踏み外し、それを続けているうちに、修復のつかない所まで行ってしまう。そして、そこまで到達すると、復帰してくることは困難を極める。林さんに、是非 Unhoused Peopleについても、書いて頂きたいと思う(もし既に執筆済みであったなら、ご容赦下さい)。 「愛」を語った素晴らしい長編小説。涙なしには読めないと思う。  

Chopin in Paris: The Life and Times of the Romantic Composer by Tad Szulc October 4, 2023

I am in the midst of “Chopin Project”, and I have been trying to learn about him from different perspectives. This book provides interesting points of views on the composer. It goes through not only Chopin but also his friends and most importantly the life of George Sand. Sometimes it is a bit confusing that […]

-A Memoir- András Schiff “Music Comes Out of Silence” Weidenfeld & Nicolson October 4, 2023

Such a delight to read András Schiff ‘s memoir! He has tremendous humor and sharp mind to tell us his stories. He goes through many fascinating episodes which was recorded in the conversation between Sir Schiff and Martin Meyer. This conversation is in the first part of this book, and the second part contains Sir. Schiff’s […]

異邦人(いりびと) 原田マハ August 24, 2023

古都京都を舞台に、「美」への果てしない追求と愛憎絡まる人間関係。そして、最後に大きな秘密が明かされ、全てが陽光の元へと曝け出される。今までに沢山読んできた原田さんの、どの小説とも似て非なる御本に、最初は戸惑うも、次第に根底にある「美」への比類ない愛情に、納得。日常を超えた、超お金持ち「お嬢様」菜穂の、これまた超わがままな態度から始まる京都暮らし。その中で、様々な人間関係が交差し、菜穂の人生スタンスが見えてくる。情熱というのは恐ろしくも、美しい。神秘的な京都の街を舞台に、ストーリーが二転三転。最後のどんでん返しを誰が想像しただろう。