Book Reviews  マイブック評

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悪魔の羽根  乃南アサ   幻冬舎

May 3, 2013

これもなかなかウイットに富んだ、そして核心を突いた短編集。ちなみに「悪魔の羽根」というのは、あの真っ白い雪の事。ここからしても、只者じゃあないぞ、という気にさせるでしょ!一つ一つの短編に、すっごく濃い人間ドラマが凝縮されている。どれ一つ取っても、長編の題材に出来るんじゃないだろうか、と思わせるくらいの、濃縮感だ。(作曲もそうだけど、往々にして、才能のない作曲家の曲は、だらだらと長く、退屈で、飽きるものだが、才能というものはすごく、大家の曲は、長短に関わらず、すべてにフレーズ、一音一音に意味があり、自然に曲が進み、聞いている側も演奏している側も音楽に没頭できる)読んでみてください。

パラダイス・サーテイー 上・下   乃南アサ

May 1, 2013

これはちょっと「軽い」作品かなあ、と思って読み始めたところ、文体は軽めだけど、中身はぐっと濃い。30才を目前にした幼馴染の女性二人が、繰り広げるお話だ。この本の中にも、ぐぐっとくる表現が詰まっているのだけど、その中で好きなのが、「吐き気のようなこのがこみ上げてきて、それが目から滴になって落ちた」。何と素晴らしい表現だろう。詩的で、かつ、とても動きがある。表現が止まっていない。女性のうちの一人、栗子(通称、グリコ)は、恋、恋愛、結婚、母になることを夢見る、29歳のOL。その友人菜摘は、レズビアンでバーを経営する。この二人が、恋をめぐり(もちろん違う恋人だよ!)、葛藤し、だまされ、はめられ、誤解し、30代に突入するお話。豪快で面白い。そして、核心を突いている。もう、乃南さんの本は、読み始めると止められなくなるから、大変だ(!)

二十四時間   乃南アサ   新潮社

April 25, 2013

これは、一日を24時間に区切り、それぞれの時間にまつわるエッセイ集。この本でも、乃南さんの、モーツアルト風の天才肌がページをめくる度に、見え隠れする。例えば、「二十時」の話の中に、こういう表現が出てくる。会社の同僚と一夜を会社で過ごす回だ。そこで、一緒にオフィス街の銭湯に行った折のユニークな同僚を指して「生渇きの髪がA子の通勤服の背中を濡らしている。風呂上りというより、彼女はほとんど、溝にはまって這い出してきた死に損ないのような有り様だった。」この文章を何度読んだことだろうか。その度に、脱帽、そして転げまわって笑う私。このエピソードは、かぐや姫が「神田川」を歌っていたころのことだと思う。だから、尚更可笑しいのかなあ、それにしても、この適切な表現。熟考しても出てくるものじゃあないと、思う。やっぱり、超天才!どの時間にも、美しく、可笑しく、時には悲しいエピソードが、溢れている。豊かな心を持った作家だなあ!と、心から実感する。

からだ  乃南アサ   文芸春秋

April 18, 2013

乃南さんにすっかりはまった私は、次から次へと彼女の作品を読んでいる今日このごろです。体の部位、臍、血流、つむじ、尻、顎の5つをモチーフにした、短編集。通常のイメージ力では考えられない、想像の翼を羽ばたかせ、それぞれに、すごい作品に仕上がっている。確かに「臍」が話しの中に出てくるものの、一般に考えられる「おへそ」の雰囲気から程遠い、ホラー風になっていたり、「お尻」という一見可愛い存在が、その可愛さ所以に、とてつもないサイコの世界に誘っていたり、まあ、皆様も乃南さんの、空想力と一緒に遊んで見て下さい。もう、私は乃南さんから、離れられなくなってしまった。。。。。

凍える牙  乃南アサ 双葉社

April 10, 2013

サスペンス小説だけど、そういうシンプルな言葉で括り切れない、デイ-プなお話。これもそういえば、ばついち、30代後半のシングル女性が主人公。そして、悲しいくらいの、ド中年の相棒刑事、滝沢を、不思議な形で配置して(恋心というのでもなく、友情というのでもなく)、ストーリーをうんとおもしろくしている。話の中心にいるオオカミ犬については、想像の産物で、その能力は生物のそれを超えているので、これは、まさにファンタジー。この本も、とってもお薦めです。

ピリオド  乃南アサ   双葉社

April 5, 2013

乃南さんの小説は、素晴らしい音楽を聴いているようだ。クレッシェンド(だんだん音量が増えること)、デイミヌエンド(だんだん音量が小さくなること)などを、巧みに駆使して、最初から最後まで、ものすごい集中力で、お話を進めていく。文章に不必要な部分がない、自然に流れていく、読者を引き込み、どどっと乃南ワールドへ引きずりこむ、まさにベートーベンの交響曲のようなのだ。心理描写にかけたら、現在右に出る人がなかなかいないと思う。主人校の宇津木葉子は、どこにでもいそうな40歳のばついち、シングル。その揺れる心を、家族の中で、不倫相手との関係で、不安定なフリーのカメラマンという仕事の中で、美しい文章で描いている。私は、身も心も、この小説に持っていかれてしまった。

夜離れ  乃南アサ  実業之日本社

April 2, 2013

この短編集は、怪談話集ともいえる。女性の恐ろしい本心や執着心を、紡いだ物語。6つあるそれぞれの短編が、作り話のようであり、現実のようであり、そりゃ、おぞましい。乃南さんの卓越した語り口と構築性が、ファンタジーと皮肉とからまり、素晴らしい短編集に仕上がっている。すごい作家だ。

薔薇恋  渡辺容子  講談社文庫

March 25, 2013

こちらの、渡辺さんのご本は、DVを題材にした不倫物語。こうやって、白馬に乗った王子様が、すべてのDV被害者に現れれば良いけど・・・・この王子様との恋愛部分はともかくも、DVにおける、夫と妻の相対関係は、とても興味深く描かれている。DVにおける激しい暴力と、王子様との典型的な恋愛が、180度の対象におかれ、文章が進む。そして、ご近所に住む一見幸せそうな家庭にも、それぞれに問題を抱えていることが、分かっていく。小説としてはとっても面白いし、男女間の問題をするどく描いているとも言える。けれど、天邪鬼な私には、小説とはいえども、やっぱりこの「白馬の騎士」の部分が、受け入れられない。

涙 上・下  乃南アサ  新潮文庫

March 20, 2013

これも、乃南さんの、超美しい恋愛小説だ。しかし、傑作ミステリーとも、サスペンスとも、いやまた、冒険小説とも言える。壮大な冒険は、一途な想いから始まり、そして、涙で、それも悲しさの涙でなく、感情の溢れる、美しい涙で終わる。終盤のクライマックスの、沖縄での豪雨の夜、この感情表現は、言葉に出来ないくらい、素晴らしい。我々読者も、あたかも暴風雨の中で、萄子と勝の物語を聞いてる気分に襲われる。ホント、すごい表現力だと思う。

左手に告げるなかれ 渡辺容子  講談社文庫

March 20, 2013

江戸川乱歩賞受賞作の、この本、すごい期待で読んだのだけど、設定はとても良いものの、文章の運びが時にまどろっこしく感じた。二転三転するドキドキ感もあり、女性保安士が主人公というユニークさもとっても良い。けれど、ちょっと洒落てみようとする表現が、自然でなく、せっかくのリズムを壊しているのが、残念だった。今後に期待しよう!と言っても、受賞が96年なのだから、もう中堅どころの作家なのですね。