Book Reviews  マイブック評

View book reviews from 2008 – 2012.

絹のまなざし 藤堂志津子  朝日新聞社 10/5/19

October 5, 2019

藤堂さんは、文筆業から引退なさったのでしょうか。。最近余り、お声を聞きませんね。「絹のまなざし」も他の藤堂さんのご本同様、北海道が舞台です。そして、心理描写に始まり、心理描写に終わるという、徹底ぶり。アメリカに住んでいると、「ウジウジ」するとか、「過去の事に振り回される」とか、「常に他人と比べてしまう」とか、日本人的素質が、良くも悪くも出てしまう。しかし、多くの日本人以外の人達が、日本人の繊細さとか、実直さとか、丁寧さに、憧れを持つのも事実です。「人の気持ちを慮る」というのは、日本人のとても素敵なところだと思います。しかし、それが行き過ぎると、自分を責めたり、社会と関係を持てずらくなってしまう。様々な「負」の要因が重なった主人公が、暗闇から徐々に立ち直り、自分への自信を復活させるのが、「絹のまなざし」。雪深い北海道に想いを馳せながら、ひと時「ちょっと古めの恋愛小説」など、いかがですか。

高校入試  湊かなえ 角川書店  9/23/19

September 23, 2019

大作です。高校入試にまつわる、ヒューマニズム的観点からの問題提起に、推理小説の醍醐味、ネットの陰湿さ、三角関係まで加え、読者をどんどん引き込んで行きます。最初に、人物相関図を巻頭ページに載せて頂き、感謝致します。ストーリーのテンポの速さと、人物の絡みで、これなしには、平凡な私の頭では、筋を追っていく事が出来なかったかも・・しかし、凡頭の私ですが、最初から何故か、この人物が、「事の中心」にいるな!というのは、分かりましたよ(ちょっと自慢!)。私自信も「教育」の現場にいるので、今更ながら、ネットという巨大なパワーに翻弄されながら生きている、若者達の現状を考えました。日本の状況は分からないけれど、ネガテイブなネットの話題が出尽くし、ネットが「当たり前」になっている今、どうやって距離を置くか、どうやって「自分」を確立するか、どうやって自分の人生掴むのか、きちんと考えられる強さを持ってもらいたいものです。アメリカでは、入試に纏わる大きなスキャンダルが(大学入試に必要なテストの点を、加算する)、高所得層とセレブの間で問題になり、最近ひとりの親に実刑が言い渡されました。「入試」というのは、魔物であり、それに臨む側への、逆挑戦でもあると思います。この本の最後に、「満開の桜の花も数日経てば散ってしまう。だが、それでその樹が終わってしまうわけではない。来年も、再び花が咲く。花が咲くのは人生に一度きりではない。今年咲かなくても、来年咲かなくても、いつか必ず、花が咲く日がやってくる・・」という一文があります。今、花が咲かない状況にいる人にとっては、そんな事簡単に言わないで欲しいと思うかもしれない。だけど、花が咲く日を心の中で想う事は出来るはず。そして、そこから元気になる事もできるはず。スタート地点は、自分で作れると思う。

超・殺人事件 推理作家の苦悩  東野圭吾  新潮文庫  9/23/19

September 23, 2019

貴方、今大笑いしたいですか?お腹の底から、ガハハと笑いたいなら、この本、薦めます。私はこの本、誰もいない家の中で読んでいて、本当に良かった!笑いが止まらず、もう一人で悶絶。大層楽しませて、頂きました。超売れっ子作家の東野圭吾さんが、出版界をブラックユーモアで描くという手法。8つの事件それぞれに、出版の裏を最高におちょくる、目眩くストーリー。東野さんの、自信の程が窺えます。私は特に、超税金対策殺人事件、超長編小説殺人事件、超高齢化社会殺人事件等が、お気に入り。爆笑率100パーセント!小さな悩みを吹っ飛ばせ!

ユートピア 湊かなえ  集英社 9/16/19

September 16, 2019

売れっ子作家の力を見る、大変な力作。「善意は悪意より恐ろしい。」と本の帯のところに書いてあるけど、そんな単純な事ではない本書です。そして、子供を侮るな!ということですね。そしてこんな一文もある「地に足を着けた大半の人たちは、ユートピアなどどこにも存在しないことを知っている。ユートピアを求める人は、自分の不運を土地のせいにして、ここではないどこかを探しているだけだ。永遠にさまよい続けていればいい。」心の中だけは誰にも見えない人間の利点を生かし、誰でも、表の顔と裏の顔を、上手に使い分ける。その中で、楽しいことも、涙することも、経験する。皆、少しずつの秘密を持ち、毎日を生きる。ユートピアがあるにしても、ないにしても・・偶然に、先日あるテレビ局の放送で、地方に移住する人たちを取材していたのを観た。完璧なユートピアを求める人もいたし、現実的にユートピアと向き合おうとする人もいた。皆誰でも、それぞれの「ユートピア」があると思う。

Nのために 湊かなえ  双葉文庫 9/8/19

September 8, 2019

確か、テレビのドラマにもなった小説。どんどんのめり込んでしまう。私は、本を置く事が出来ずに、一気に読んでしまいましたよ!登場人物の設定が、魅力的。私もずっーーーーと前に、日本にいた頃、こんな人間関係の中にいた事がある気がする。自然に集まっちゃって、飲み会が始まっちゃうみたいな。その中で、恋愛もどきも産まれる。若いって、本当にすごいね。年齢重ねた現在、良いも悪いも、自分の肩にかかるものが多すぎて、「ちゃって」みたいな状況になるには、大変な努力が必要なんです。もう、全く!「野バラ荘」での、人生絵巻が、殺人となり、Nへの想いになって行く。はっきり言って、面白いですよ、この本。そして、人は一人では生きていない。生きられない。

おもかげ  浅田次郎  毎日新聞社 9/8/19

September 8, 2019

浅田次郎さんの小説は、いつも涙なしには読めない。この本も例外に漏れず・・・こういう「良い本」を読むと、正直に人生って何だ、って心底考えさせられますね。一人一人の人間に与えられた人生の長さは、人それぞれ。だけど、一回だけ。求めるものも、価値感も、違うかもしれない。だけど・・・死に行く時に、何を思うのだろうか。私の人生の中でも、色々な「死」を見て来た。天寿を全うした人。心半ばで、悔いを残しながらこの世を去った人。若くして、自ら命を絶った人。本当に様々だ。死に行く時に、今まで思って叶わなかった事が、想いとなって出てくるのだろうか。それは、誰にも分からない。この本の中から、いくつか心に残った文章。

「・・健康診断を受けるたびに、高コレステロールだの高脂血症だのと言われるが、この薬も直ちに捨てる。どうも同じことを言われて同じ薬を嚥んでいるやつが多すぎる。みんなが同じ症状ならば病気ではなく、それが正常であるはずだから、病院や医者の都合だろうと永山は読んでいた。・・・」まさにそう!!!

「退屈はいいものだ。どうでもいいことを考える時間。非生産的な、思考と想像の時間。かつて人類は、豊かな閑暇を持て余して生き、そのまま優雅に死んで行ったのだと思う。それがいつのころからか、どうでもいいことを考えるのは怠惰とされ、非生産的な行為を排除し、自由な思考と想像を封止して生きるようになった。いくら寿命が延びたところで、そうした人生は短く、その死は貧しいものであるにちがいない。」言い得て妙。まさに同感。

「男と女のドロドロの話なんて、面白くない。それよか、「他人のような気がしないケース」のほうがずっとロマンチックじゃん」本当にそう・・・・

長編ですよ。だけど、とっても読み応えがありますよ。是非読んでみてください。

坊ちゃん 夏目漱石 新潮文庫 8/4/19

August 4, 2019

何故、今頃、夏目漱石?と思われる方もあるかもしれないですね。町田康さんの文章に、夏目漱石絶賛!があったので、今回の旅に持って来た訳です。フランスで読む、漱石。それだけで、洒落ていると思いませんか?私は、漱石の文章の新鮮さに、とても感動しています。まさに、日本現代文学の布石を築いたのだなあと、実感しています。発想、文章の切れ、テンポ感、ユーモア、写実性、もう全てが、飛び切りカッコイイ!多くの人に愛読されている訳です。1906年作で、創作されてから100年以上経っているはずなのに、ヤンチャ話を近所の若者(!)から聞いているよう。愛に溢れ、人情に溢れ、正義感に溢れ、とても熱い小説です。是非、お手に取ってみては?

東京飄然 町田康 中央公論社 7/30/19

July 30, 2019

今年のベスト3に入る、名作。剽軽さ、チャランポランなところ、日本語への愛に溢れている文体、もう全てが良い。ロサンジェルスからフランスへの飛行機で読んだけど、吹き出すのを堪えた事、数多。表情豊かな文章は、それはそれは魅力的。嘘っぽいんだけど、本当は心からの真実の叫び!東京を散歩しながら、いろいろな事を見つける飄然の旅。貴方も町田さんと、一緒に旅に出てみませんか。混沌とした東京に、町田さんの情趣情感を感じましょう。

スクラップ・アンド・ビルド 羽田圭介  文藝春秋 7/16/19

July 17, 2019

読み始めてすぐに、重い小説は、やだなあ・・と思い、辞めようと思うも、続行。次第に、「重さ」ではなく、「優しさ」がテーマである事に、気付く。この「優しさ」が実はとっても曲者で、新鮮でかつ湾曲している。言葉の選び方、表現、テンポ、空気感、全てが、ユニーク、かつ創造性に溢れているのだ。何もカッコ良い事を語っていないが、何故か颯爽としている。もし健斗に出会ったら、惚れてしまいそうだ・・

死の島  小池真理子 文藝春秋 7/16/19

July 17, 2019

小池真理子の小説は、死と隣り合わせのものが多いと思うのは、私だけだろうか。死を美化している訳ではないけれど、死がとても近いところにある、そういう感じ。この小説は、死に自分から近づくのではなく、ステージ4のガンにより、どのように自分の最後を迎えるのか、というお話である。この本を読んでいる時に下記の一節に会い、宗教観のほぼない日本の価値観と、大きく違うのを感じた。良い悪いという問題ではなく・・・しかし、主人公澤と樹里の、世俗を離れた独自の関係は、とても素敵だ。永遠に。

When we are living it is in Christ Jesus,

and when we’re dying, it is in the Lord.

Both in our living, and in our dying,

we belong to God, we belong to God.